こうして物語は生れた「今だからこそ、家族でおうちでできること」
お題「#おうち時間」
今、自宅でいかに楽しく過ごすかが最大のミッションですよね。
これからご紹介する作品は、我が家の子供がまだ、小学生の時にこの物語を作りました。(二人の子供は、今は、高校生になりましたが)
今、家族で過ごす時間がありすぎる?昨今ですが、こんな風に家族で楽しんでみてもいいのではないでしょうか?
今こそ、原点にかえって、この時間が後にかけがえのない時となることを願って。
今日も、スマイル!(^^)!
~ここから全文掲載します~
タイトル 「家庭劇場」
作:スマイル・エンジェル 《あらすじ》 高校1年の私は、毎月我が家で開催される『家庭劇場』に友達の美咲を招待する。 『家庭劇場』は、料理好きのママが創作料理を作り、本好きのパパが本の紹介をして、宇宙飛行士を夢見る弟が宇宙に関するクイズを出し、ピアノが得意な私が演奏を披露する。マイホームを舞台に温かい家族の絆を描いた物語。 文字数:6992
高校の帰り道、駅前のショッピングモールのフードコートでタピオカドリンクをストローで吸い上げて美咲が、
「家庭劇場?なに、それ?」と残ったタピオカをズズッと少し音を立ててすする。
私も、半分になった、ミルクティーの下に沈んだ黒いタピオカをストローでかき回しながら美咲にどう説明しようかと思案する。
美咲に、バイトが休みの日曜日に映画に行こうと誘われたが、その日は、我が家では、『家庭劇場』の日だった。 美咲とは、高校の入学式の日に隣になった。
8クラスある新入学生の女子の中でも美咲は、ダントツに目立つ美人で、いわゆるオーラがあった。 制服のスカートの丈も程よく短くして、すらりと伸びた脚に黒いハイソックがよく似合っていた。
新入生の生徒はまだ制服に着られているようなぎこちない体裁の中で、美咲だけが、雑誌のモデルのように着こなしていた。
その美咲から、親しそうに話しかけられて最初はドギマギしたけど、見た目とは違いとても親しみやすい性格にすっかりと仲良くなった。
私は、そんな美咲をいつも憧れの存在として大切に思っていて、美咲の誘いを断りたくなかった。 でも、我が家でほぼ毎月行われる家庭劇場も大切だった。
きっとパパもママも、私が、友達との約束を優先したいと言ったら、そうさせてくれると思う。 でも、そうはしたくないという気持ちもある。
家庭劇場は、パパとママが育った施設でやってきたことらしい。
その施設には、私が小学生でクリスマス会の時に初めて行った。
施設では、私よりも小さい子から、高校生までの30人程の子ども達が一緒に生活していた。 ママは施設に着くと、すぐにエプロンをつけて、奥にいなくなった。
パパと弟と私は、子どもたちと一緒に部屋の飾りつけを手伝った。
パパは、園長先生のおじさんとすごく仲良く楽しそうに話をしながら、他の子ども達にもまるでずっと前から一緒に生活していた家族のように親しそうに打ち解けていた。
私は、初めて知り合う人ばかりで最初は緊張していたけど、みんなと一緒にお部屋の飾りつけが終わる頃には、すっかりみんなと打ち解けていた。
そして、仲良くなった数人の女の子と一緒に湯気のたった温かいとうもろこしのスープをテーブルに並べるお手伝いをした。
その他に食事は、小さな骨付きの鶏肉とサンドイッチが用意され、そして、イチゴの生クリームのケーキをママが食事係りのおばさんと一緒に切り分けてくれた。
食事が終わると、飾りつけをしたホールで、同じ歳くらいの子どもたちが数人のグループに別れて、歌を歌ったり、手品をしたり、漫才を披露してくれる。
パパとママも混じって職員の人たちと一緒にハンドベルでクリスマスソングを演奏し、最後に、 サンタクロースに扮した園長先生のおじさんが、子どもたち全員にプレゼントを配ってくれた。
私も、小さいピンクのクマのぬいぐるみをもらい、弟は電車のプラレールをもらった。 クリスマス会が終わって、私達が玄関でみんなに見送られている時に、ママは、食事を作ってくれたおばさんに背中をさすられながら、泣いていた。
私は、なぜママが泣いているのかよくわからなかったけど、悲しくて泣いているのではない事はわかった。 それから、何度か、施設に遊びに行ったけど、毎回楽しい思い出になった。 施設では、高校3年生になったら、一人暮らしをしなければいけないそうで、パパとママも高校を卒業してから、就職した寮や一部屋だけの狭いアパートに暮らして、その後、結婚して、私が生れた時に今の家を買った。
そして、我が家での家庭劇場は、ママは、得意の創作料理と部屋の飾りつけ、読書好きのパパは本の紹介、弟は、将来の夢である宇宙飛行士にちなんだクイズを出すのがブームだ。 私は、幼稚園から続けているピアノの演奏をする。
これを節分・ひな祭り・端午の節句・七夕・お月見・クリスマス、それ以外の月は、それぞれの誕生日のお祝いと、我が家では、ほぼ毎月『家庭劇場』が開催される。
施設の話は除いて、そう美咲に説明すると、 「毎月ってさ。それって、ウザくない?」 と言って美咲は、カバンから化粧ポーチを出しキラキラにデコったコンパクトの鏡を見ながら、リップの口紅をつける。 美咲には、返事を一日待ってもらう事にした。
家に帰ると、パートから帰ってきたママがスーパーの袋から食材を出して冷蔵庫にしまっている。 私は、部屋着に着替えて、エプロンを付けてキッチンでママの手伝いをする。
このキッチンは、お料理好きのママが家を買う時に一番こだわったという。
おうちには動線というのがあって、特に水回りは一番大切なんだとか。
そして、キッチンは家族が健康で快適で幸せに過ごすために一番大切な食事を作る場であると。
ママ曰く「楽しくって、わくわくして、そして、喜んで料理ができるキッチンにしよう!」
という理想を掲げて、沢山のモデルルームを見たり、設計士さんに相談して作ったママご自慢の対面式のキッチンだ。
こうして、家族が仲良く一緒に食事の支度ができるようにとスペースもたっぷりと取っている。
私は、ママから頼まれたエビの殻をむきながら美咲からの誘いの話をする。
予想通りにママは、美咲と映画に行っていいよと言ってくれる。
「ねぇ。なんでうちで家庭劇場をやるようになったの」
「ママとパパは、子供の頃、本当の家族じゃない、沢山の仲間や園長先生や、お料理を作ってくれる寮母さんと暮らしてきたでしょう。時には、本当のお父さん、お母さんに会いたくて寂しくて悲しくて、自分が壊れてしまいそうな時がたくさんあったのね」
私は、ママを見れなくて、ひたすら丁寧にエビの背ワタを取るのに集中した。
「そんな時に毎月、施設で開催される家庭劇場が、すっごく楽しくってね。次は、みんなに何を披露しようか、喜ばせようかって思うのよ。その為に、一生懸命勉強も頑張ったしね。パパだって同じ気持ちだったと思うんだ。だから、パパと結婚して、この家を買った時に、この家で本当の家族で、最高の家庭劇場をやろうって思ったの」
そうママの話を聞いて、心に決めた。 美咲を我が家の家庭劇場に招待しようと。
週末の日曜日。 我が家の家庭劇場の日。 ウザイと言った美咲もドーナツの手土産を持って我が家に遊びに来た。
美咲は、薄っすらと化粧をして、長い髪をクルンとカールさせて、重ね着したシャツとインナーのカットソーに太目のデニムパンツが本当に雑誌の中から出てきたようにオシャレで可愛い。
私は、持っている中で一番のお気に入りのトレーナーにギンガムチェックのパンツがとても子供っぽくて恥ずかしかった。
玄関に飾られたウエルカムボードには美咲を歓迎するメッセージとお月様とウサギのイラストが描かれていて、出迎えたママに普段とは全く違うかしこまった美咲の態度に、私は、吹き出しそうになるのをぐっとこらえた。
リビングでは、パパと弟が大きなお月様の飾りを天上から吊るしている。
入ってきた美咲にパパが満面の笑顔で 「わ~モデルさんみたいな美人さんだね」と嬉しそうに言う。
今日の家庭劇場のテーマの中秋の名月は、食べ物の豊作を祈る儀式でもあり『いもの名月』とも言われているので、ママはさつまいもを使ったお料理を用意してくれた。
最初は、さつまいものポタージュスープに隠し味でカレーのスパイスを入れて、さつまいもの甘さの後にほのかなスパイスの味がきいている。
ママは食事の時には、温かい汁物を用意する。それは、ママが育った施設で、夕食には必ず温かい汁物が出されてきからだ。
その時の事をママは、 「時には、寂しかったり、悲しかったりしても温かい汁物を飲むと体がほっこりとして、心に溜まったいやなモヤモヤが、溶けてなくなってしまうのよ」と教えてくれた。
だから、私も、ママの作るスープやおみそ汁が大好きだ。
美咲は、スープを2杯もお代りをして、次に出て来たさつまいもとレーズンと柿のサラダ、さつまいもとベーコンのグラタン、さつまいもを練り込んだクロワッサン、デザートの生スイートポテトまでを完食した。
食後は、家庭劇場のトップバッターで私が、リビングに置かれたピアノの演奏を披露する。
「さあ、皆様目を閉じてください。ここは、18世紀のヨーロッパのウィーンの街。ベートーベンが、30歳になったある夜。美しい月の光の中をベートーベンが散歩しているとある家から、ピアノの音が聞こえてきました」
私は、ベートーベンのピアノソナタを軽やかに数曲演奏して
「そして、ベートーベンは、ピアノの音が聞こえる部屋にそっと入ると灯りもつけずに女の子がピアノの前に座っていました。気配にきずいた女の子は、辺りを見回しますが、女の子は目が見えなかったのです。 ベートーベンは、自分の曲を弾いてくれたお礼にと、その時、心に浮かんできた曲を弾きはじめます。 それが、『月光』です」
私は、静かにベートーベンの月光を弾く。 自分でも満足のいく演奏ができ、弾き終わると盛大な拍手に包まれる。
次に弟が出てきてメモを見ながら「今日は、月に関するクイズを考えました。お父さんは、40歳、お母さんは39歳。さて、お月様は何歳でしょうか?」
全員が、無言で考える。 私が、そっと手を挙げて
「500歳?あ~やっぱり1000歳?かな」
パパが「そんな若くないだろ、1億歳くらいかな」
「まったくわからないわ」とママが腕を組む。
弟が真っすぐに美咲をみて「どうですか?」と聞く。
美咲も困って「全然わかんない~」
「正解は、約46億歳です」
「え~!そんなのもう、まったく想像もつかないわ」とママが驚いて言う 。
さらに弟は、得意げに 「今、見えている月は、明るく光っているけど、これは月が自分で光っているのではなくて、太陽の光が反射しているんだ。そして、月は約15日間昼間がつづいて、その後、15日間夜がつづくんだ。最高温度は110度、最低温度は―40度と温度の変化が激しいんだ」
「そんなんじゃ、月には住めないわね」と私が言うと
美咲が「私達、地球人で良かったね」
「そうなんです。僕たち人間は、今は月には住めない。月は眺めるのがいいと思うけど、いつか僕は宇宙飛行士になって月に行ってみたいと思うんだ」
「ママは、子どもの頃、お月様にウサギが遊んでいるって信じていたけど、今の話をきいたらありえないわね」
「え~ママったら、そんなのありえないじゃない」と私は、呆れてママを見る。
「そのうさぎの話は、日本の『今昔物語』の中で菩薩の修行をしていたうさぎが火の中に飛び込み、それを帝釈天という仏様が、うさぎを月の中に移したというお話から言い伝えられているんだよ」
「パパは、何でも知っているのね」とママが本当に感心して言う。
普段から、ママはパパのことを本当に心から尊敬しているのが、よくわかる。
そのやりとりを見ていた美咲が私に小声で 「ねぇ、彩花のうちっていつもこんな感じ?」
「こんな感じって?」 私が、美咲を見ると、もういいわと言う顔で美咲は、黙りこんだ。
家庭劇場の取りは、パパの出番だ。
パパはかぐや姫の絵本を掲げて「今日は、お月様のテーマだから、みんながよく知っているかぐや姫のお話をするね」
私は、さっきから美咲の反応が気になって、そっと美咲の横顔を盗みると表情を変えずにじっとパパを見つめている。
パパはいつもの陽気な調子で 「かぐや姫のお話は、この日本で一番古い物語の竹取物語に書かれたお話なんだよ」 と言って、表紙の題号の“竹取物語”がかすれた墨文字で書かれた古びた本を見せてくれる。
「竹取物語の作者はわからないけど、上流階級の男性だったんじゃないかといわれているんだ。話の内容はみんなが知っていると思うけど、物語の最後にかぐや姫が、月に帰る時に、和歌のやりとりをして交流のあった帝に不死の薬を贈るんだ。しかし、帝は、かぐや姫のいないこの世で、永遠に死なない命になっても意味がないとそれを日本で一番高い山で焼くように命じた。それから、その山は『不死の山』今の富士山と呼ばれ、また、その山からは、常に煙が上がるようになったと伝えられているんだよ」
ママがまた、すごく感心したように 「かぐや姫にそんな素敵なロマンスがあったなんて、知らなかったわ。これから富士山を見るたびにこの話を思いだすわね」
「今日は、あともう一つのお話を紹介するね。舞台は、アフリカのサハラ砂漠で本はこの「星の王子様」だよ」と言って星と王子様が描かれた本をパパが掲げる。
私も、大好きな本で私の書棚にもある本だ。
「この作品は、子供向けの物語のようだけど、“子供の心を忘れてしまった大人に向けたものである”とも言われているんだ。お父さんがこの作品で好きな場面は、自分の星に帰る王子様と主人公の友情のやりとりでね」
パパは、本を開いて 「王子がこういうんだ『夜になったら、星をながめてくれよ。ぼくんちは、とてもちっぽけだから、どこにぼくの星があるのか、きみに見せるわけにはいかないんだ。だけど、そのほうがいいよ。きみは、ぼくの星を、星のうちのどれか一つだと思って眺めるからね。すると、きみは、どの星も、眺めるのが好きになるよ。星がみんな、君の友達になるわけさ。そして、王子は、自分は、笑い上戸の星だから、君が悲しくなっても、星を見上げると、ああ、嬉しいと思うこともあるよ。そうだよ、ぼくは、星を見るといつも笑いたくなるよ』ってね」
「僕が宇宙飛行士になって宇宙に行ってみたいって思ったのも、パパにこの本を読んでもらったからなんだ」 と弟が思わずイスから立ち上がり得意になって言う。
パパは、本を閉じてニッコリ笑って私達を見つめて。
「パパは、子供の頃から本を読むのが大好きだったんだ。本を読む楽しさは、“タイムマシン”か“万能飛行機”を手に入れたようなものだよ。本は、どんな時代のどんな時を超え、空を超え、どこへでも行ける。いや、“その時代にそこにいた人だって知らなかった”ような事までわかるしな」
「そうね。自分一人の経験だけだと“一人分の人生”だけど、本を読むことで、沢山の人の経験や知識やドラマを学ぶことができるものね」とママが言う。
「読書を通して、もう、死んでしまった文豪や偉人と会話ができるし」
「私も、さっき弾いた、曲も作曲した人の伝記を読むと、すごく上手く弾けるような気がするもの」と熱く言う。
「さあ、では、今日の家庭劇場はここまでにして、熱いハーブティーと美咲ちゃんから頂いたドーナツをみんなで、頂きましょう」とママが立ち上がり、キッチンへと行く。 私は、美咲の反応がすごく気になった。 さっきから美咲は、怒ったような表情でまったく楽しそうじゃない。
やっぱり誘わないほうが良かったとすごく後悔した。
美咲を駅まで送る途中、大きくて真っ赤な太陽がゆっくりと沈んでいく。
眩しくて目を細めていると美咲が 「今日は、楽しい一日をありがとう。正直、彩花がうらやましいって思った」
美咲の横顔を見ると、夕日に照らされているせいか、耳元が少し赤くなっている。
「彩花に家庭劇場?って、よくわかんない話をされてさ。それも、毎月やっているって聞いた時は、チョーウザイ!何それ!?って、思ったけど。今日、初めて参加して、まじに、いいな…って。家なんか、最近は、私の誕生日だってやってくれないしね。家族で集まって食事するって、最近無かったなって」
「でも、毎月やるって最近は、少しね…」美咲の寂しそうな顔を見て、私は、心にもない事を言ってみる。
「ねぇ、今度さ、また、誘ってくれる。その時は、私、歌うからさ」
「えっ!?ホント!」 「あ、彩花が伴奏してさ、コラボしようよ」 「オッケー」 「何、歌おうかな…」
私と美咲はお互いが好きなアーティストの名前と曲名を出し合う。
「それから、彩花のママにお料理教えて欲しいな。さつまいものスープ飲んだ時、すっごく心があったかくなって、なんかさ~幸せ、って思たんだ」 と楽しそうな美咲を見て、私は、めちゃくちゃ嬉しい気持ちになった。
美咲を駅に送り、家に帰るとリビングのソファに並んで座るパパとママの背中が見える。
少し離れた所で、弟がテレビを見ている。
パパがママにビールをついであげて、ママもお返しにパパにビールをついであげて乾杯というふうにコップを重ねてビールを飲み干す。
私は、二人の姿を見て、胸の奥から込み上げる感情で、目頭がじわっと熱くなる。
私の気配に気づいたママが笑顔で「お帰り。美咲ちゃんどうだった?」
「すっごく楽しかったってさ」
ビールのせいで少し顔を赤くしたパパが 「それは良かったな。美咲ちゃん。俺の本の話の時、すっごく怖い顔してたからさ、つまんないのかなって心配だったんだよ」
「そんなことないよ。次回は、私がピアノを弾いて、美咲が歌うってさ」
「おう、それは楽しみだな」
「これ飲んだら、晩ごはんつくるね」とママがビールの入ったグラスを持ち上げる。 「いいよ。今晩は、私が作るよ。クリームシチューでいい?」
「えっ!嬉しいな~。飲んだらおっくうになっちゃったしね」
「パパとママはゆっくりしてよ」
私は、キッチンに行き、エプロンをつけてタマネギを刻む。 刻んだタマネギのせいか、涙があふれてくる。
キッチンペーパーで涙をふきながら、そっとリビングを覗き、ママとパパの子どもで良かったと心から思う。
今、ここにいる幸せをかみしめながら、涙を流しながら、タマネギを刻む。 おわり